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コラム

まだまだ・・・

掲載日:2016.01.21


 友人のお父さんが亡くなりました。もう長くはないと医師に告げられ、延命治療はしないという家族の意向でお父さんは自宅に帰っていました。亡くなる朝に友人は実家のお母さんと話し、「今は安定している」と聞きました。彼女はお父さんが亡くなる前に一度会いに行こうと、そのすぐ後に来月の飛行機の予約をしました。その直後にお母さんから電話があり、「お父さんが亡くなった」と知らされました。
 彼女から「動揺していて何をしていいかわからないので助けに来てほしい」と電話がありました。すぐに彼女の家に行って、まずは飛行機の予約の変更をしました。そのままであれば、先ほど予約したばかりの往復の航空運賃は半額は戻ってきません。素人には少しわかりづらい変更の仕方だったので、動揺している彼女には難しかったと思います。死亡診断書を航空会社にファックスで送ることができれば、手数料なしで明日の便に変更が可能となることがわかりました。今日中に死亡診断書を実家から航空会社に送ってもらわなければなりません。「それを誰に頼むか」という段になって、私は彼女が石巻出身だという現実と向き合うことになりました。
 普段彼女は、震災のことをほとんど話しません。ほんの少しだけ「親戚の子どもさんが流された」というようなことを聞いたことはありますが、ほとんど聞くことはありませんでした。ですから私も、彼女の親戚や友人が被害にあったことなど、普段はまったく意識になく彼女と話していました。
 でも今回、動揺しているお母さん以外に死亡診断書を誰に頼むかという段になった時に、私が「お友達とか親戚とか近くにいないの?」と軽く尋ねた時、「みんな津波で家が流されて、近くにはいないの」という彼女の言葉に、私は「はっ」としました。
 その時に、お正月に彼女からもらったメールのことも改めて思い出しました。「仮設住宅に入っていた友人から、『年末だけど新しい家に引っ越すことができた』と連絡がきて、しばし一緒に感慨にふけった」「本当に長い四年間だったって。これからが、又違う大変さがあるだろうけど、本当に良かったって。頑張ったよね。」って、そう友人と喜び合ったと伝えられて、「まだ仮設住宅での生活を余儀なくされている人たちがたくさんいるんだ」とその時改めて認識しました。聞けば実際には様々なものが流されて、例えば車を流されてしまい移動の手段を奪われたままの多くの人たちがいることや、それほど大きなものでなくても日常のちょっとしたことにいちいち支障が生じていることなど、東北の人たちは私たちが当たり前と享受している日常がまだまだ取り戻されていないことを友人を通じて認識させられました。
 その日友人にとっての必要最低限のことは済ませて我が家に帰ってきた私に、夕方彼女から電話がありました。「震災で斎場が流されて足りないので、お父さんのお葬式は5日後になる」とのことでした。ああ、ここにもまだ震災の爪痕がある・・・。こんなふうに直接触れることがなければ被災した人たちの現実を知ることがほとんどなくなっていますが、まぎれもない爪痕はまだ東北の人たちの生活の中にあるのですね。
 私ははからずも彼女のお父さんの死を通してその現実の一端に触れることができました。彼女が語らない多くの痛みが、まだ彼女やその周りの人たちにあるのだと、私は気持ちのどこかにしっかりと置いておきたいと思いました。被災した人たちやその関係者たちの痛みは、その体験をしていない私たちにはわかりきることはできないと思います。私たちにできることがあるとすれば、「わかってほしい」と願われた時に、「少しでもわかりたい」と願いながらその手を、気持ちを、受け止め寄り添う努力をすることなのだろうと思います。