「重度のうつ病」から……

掲載日:2020.07.21


ご家族からの依頼で、「重度のうつ病」と診断された方と
昨年からセッションを始めました。

これまで、心療内科や精神科を受診して良い結果が出ず、
私のセッションを受けるようになって格段に回復したクライアントさんは多くいましたが、
これほど重度のうつ病の患者さんをお引き受けするのは初めてでした。

社会生活はもちろんのこと、受診以外は部屋から出ることもできず
日常生活もまともに送ることができない状態が続いていました。

医者に規定以上の薬を多量に処方され、依存させられた状態で、
うつ病が重度化・固定化していく状況に対し、
ご家族や職場の上司も担当医を変えたいと思っていましたが、
ご本人の医師への依存が強く、難しい状況でした。

そのような中で私との電話セッションは受け入れてくださり、
少しずつご自身の現状を聞かせてくれるようになりました。

とは言え、系統だった話ができる状態ではなく、
そのつど浮かぶ断片的な辛い記憶が吐露され、
それを受け止める、そんな時間が続きました。

当初は、「自分が生きていることが罪」という意識が強く、
すべてに対して自己否定が起きていました。

「布団で眠ること」さえ自分に許せず、
私と出会うまでは床や机に突っ伏して気を失うように眠るだけで、
2年間はベッドで眠ることはなかったといいます。
(それでも睡眠に問題もあり、強い眠剤を服用していました。)

トラウマとなる出来事がありPTSDに苦しめられていた彼女を、
ただひたすら私の全身全霊で受け止める日々がありました。

私には、ある程度の精神科領域の知識はありました。
(いつ役に立つかわからなくても、いろいろな勉強をして
お道具箱に色々なものを入れておく私の習性がこういう時に役立ちます。)

しかし、重度のうつ病の患者さんへの治療に関する「真に有効な方法」は、
精神科や心療内科の領域にもなかなか存在しないようでした。

実際に具体的に有効な方法があるのなら、
多くの人がとっくに精神科や心療内科で回復することができているのでしょう。

彼女の回復にとって真に有効な方法もわからないまま、
私はただひたすら彼女に寄り添いました。

当初は、真っ暗闇の中を二人で手をつないで手探りで進んでいくような状況でした。

どちらの方向へ進めばいいのかもわからない中で私が貫いたことは、
彼女の感じていること(感じないということを感じていること)や抱えていることを
どんなに微細なことでも私自身の心で感じ、そこから関わることでした。

そして、「人によって壊された心は、人によって回復することができる」という信念と、
「もう一度、喜びや幸せを感じられる人生を歩んでほしい」という願いを強く持って、
彼女と向き合っていきました。

そのように真摯に彼女との関係性を築く中で、
徐々に私への信頼感を持ってもらえるようになっていきました。
やがて、薄皮をはがすようにご本人の状態は良くなっていきました。

その流れの中で、周りの人たちが願っていた担当医の変更も、
予想以上にスムーズに進めることができました。

新しい病院の医師は、
私とのセッションで彼女が回復した程度に合わせて
上手に薬を減らしていってくれました。

担当医は薬を減らすことをメインに関わり、
私は薬を減らしたことによる彼女の反応を見ながら、回復を進めていきました。

当初、一切の感情が無く、笑うことも泣くこともできなかった彼女が、
ユーモアを交えた私との会話に「くすっ」と笑いが生まれるようになりました。

テレビを観ても「ただ画面が動いているだけで何も頭に入ってこない」という状況から、
徐々に「言っていることが頭に入るようになってきた」と変化していきました。

様々な角度から私にできる最善を尽くして関わるうちに、
好きな番組や俳優さんの話ができるようになってきました。
外出も少しならできるようになっていきました。

ここ数か月はグングンと回復してきました。
そしてついには、何をする意欲もなかった彼女が
「仕事に復帰したい」というまでになりました。

私自身は、「まだ少し早い」という気がしていました。
もう少し彼女の精神的な基盤をしっかりと整え直してから
次のステージに歩みを進めたいと思いました。

しかし、彼女の「復職したい」という気持ちは強く、
それなら私もそれに応える努力をしようと思いました。

この2か月ほどは、職場復帰を目指すセッションを慎重におこなってきました。

そして職場と相談して、なんと今月から職場復帰を果たすこととなりました!

まだ本格的な復帰ではなく、職場の理解もあり、
最初は週に数日出勤で、時間も短めからです。
始めはお昼まで、徐々に15時まで、と勤務時間をのばしていきます。

復帰初日には、部長に連れられ各部署にあいさつ回りをしました。
3年以上も職場を離れていたので知らない人も多かったそうですが、
行く先々にいた彼女を知っている人たちからは「おかえり」と温かく声をかけられたそうです。

何人もの人たちが、彼女の手を握ったりハグをしてくれたそうです。
「みんな、ソーシャルディスタンスなんて忘れちゃったようでした」
と嬉しそうに報告をしてくれる彼女の声を聞いていて、私は涙が出ました。

セッションを始めて1年も経たないうちにこのような日が来るなんて。。。
私自身も想定していなかった彼女の回復力でした。

人がその奥深くに持っているレジリエンス(回復力)の素晴らしさを、
彼女は私に教えてくれました。

とは言え、ずっと引きこもっていたので体力もなく、お昼まででも疲れ果てます。
人と接するようになると、トラウマとなった出来事のフラッシュバックも起きてきました。
出勤の日に、頭痛や吐き気など体に反応が起きて、出勤できない日もありました。

ここからは、私にとってこれまで以上に緊張する日々になりそうです。

「仕事が楽しい」「復職できて嬉しい」という彼女が、
その再出発をPTSDによってくじかれることがないように、
これからは、彼女のPTSDに慎重に対処する必要があります。

これは、「言うは易く行うは難し」です。
彼女を再トラウマ化させないように、慎重に、しかも確実に支えていく必要があります。

今神さまが願いを叶えてくれるなら、
彼女を支えるための最適な「智慧」と「力」と「強くて柔らかい心」を私に与えていただきたいです。

彼女が「良き人生」を歩んでいくことを、これからも全力でサポートします。