「透明なゆりかご」と 発達障害

掲載日:2018.10.02


先月、好きだったドラマが終わりました。
「透明なゆりかご」
小さな産婦人科医院で起こる出来事を、
少し発達障害のある看護師見習の高校生の目を通して描いたドラマです。

新しい命が生まれる産婦人科医院では、嬉しいことばかりが起きるとは限りません。
経済的な理由から、産みたくても中絶を選択せざるを得ない主婦。
仕事と妊娠とのバランスがうまく取れず悩むキャリア女性。
10代の妊娠。
不妊治療を続ける夫婦。
性虐待を受けた子ども。
出産直後に妻が死んでしまい、医者に怒りをぶつけながら幼子を抱え途方に暮れる若い父親。
おなかの赤ちゃんに重い障害があって、生まれてきても長く生きられないとわかった夫婦の葛藤。
生きるために男に体をゆだね、その結果の中絶を繰り返す女性。

さまざまな人たちの出来事と葛藤を、温かく包み込むような眼差しで描いています。
作者は決して誰をも否定したり批判したりしていません。
派手さのない慎ましいこのドラマの全編には、優しさが貫かれていました。

原作者の沖田×華(ばっか)さんは、漫画家です。
彼女の漫画を見たことはありませんが、彼女のことは去年、発達障害の特集番組で知りました。
一度見ただけの去年の番組なので、記憶が多少間違っているかもしれません。
それを了承いただいたうえで、ここに記してみます。

視覚的に印象に残っているのは、青が好きだという彼女の「青いもの」に囲まれた仕事場です。
それはまあ、「普通」とは言い難い空間ではありました。
でも、他人と共有するスペースではないので、彼女が居心地がいいならそれで良いですよね。

最初彼女は看護師として働いていましたが、あまりに仕事ができず失敗ばかりしていたようです。
怒りが沸点に達した同僚から、「死んで!」と本気で言われたそうです。
(この同僚の気持ちは、投げつけた言葉の良し悪しは別として、私はわからないではありません。
 沖田さんと同じように仕事ができなさすぎる同僚を持って相当な苦労をしている人たちが
 私のクライアントさんの中には何人かいて、その苦労と嘆きを聞くことがけっこうあるからです。)

そんな沖田さんは自身でも自分を肯定することができず、自殺を試みますが失敗して死ねませんでした。

その後彼女はキャバクラで働き、その時に客として来ていた漫画家に、
「君の人生は面白すぎるから、それを漫画にしたらいい」と言われ、漫画を描いてみたそうです。
彼女の漫画はかなり評判になったそうです。

・・・ここまでが、私の記憶をたどった彼女についての情報です。・・・

評判になったということは、彼女と同じように苦しんでいる人や
その周りで対処の仕方に困っている人たちが少なくないということでしょう。

私も、沖田さんとは似ているところもあるし違うところもある「発達障害」だと思っています。

最近知り合った人で、発達障害の一つであるADHDと診断されているという若い女性がいます。
私は彼女と似ている部分が多いと感じますし、周りの人がちょっと驚くような彼女の言動がよく理解できます。

当初彼女はそんな自分が嫌いのようでしたが、「私も自分がADHDだと思っている」
「私はこれも自分のステキな部分だと思っている」と伝えていったところ、
最近の彼女は自分の特性をずいぶん肯定的に受け入れて生活をしているように感じます。

彼女は、とってもステキな感性の持ち主です。
彼女は決して人を傷つけるようなことはなく、沖田さんのように人を優しく包み込むような人です。
(ADHDの人がみんな心優しいとは限りませんが。)
職場ではADHDであることを伝え、彼女に合った場所に配置され、その特性を発揮しています。

私は今、カウンセラーやセラピスト、コーチとして仕事をしています。
この仕事をするうえで、ADHDは何の支障もありません。
でも、もしも別の職業についていたら、
看護師時代の沖田さんのように「使えない」人と判断されるかもしれません。

人を見る時の「ものさし」って、いろいろな種類や基準があると思います。
ある「ものさし」を当てられたら、私や沖田さんはあきれられるくらい「使えない人」になるでしょう。
でも、別の「ものさし」を当ててみると、沖田さんであれば、今回の「透明なゆりかご」のような、
人を優しく包み込む温かさのある作品を生み出す「ステキな才能のある人」になります。

バリバリ仕事が「出来る人」も、時には条件付きでなく、
そのままの自分を受け入れてほしい時もあるのではないでしょうか?
そんな時には(同僚としては困るけれど)、心優しい発達障害の人にそばにいてもらったら、
気持ちが楽になるということもあるかもしれません。

私のクライアントさんの中には、合わない仕事を頑張って、適応障害になった人もいます。
「適応障害」はまさしく、その職場や職種には適応できなかったということですから、
自分が合わないところからはとっとと撤退したほうがいいのです。
自分の能力を発揮して多くの人に喜ばれる「自分に合う仕事や働き方」が、誰にでもきっとあると思います。

「逃げるは恥だが役に立つ」という人気ドラマがありましたが、
その仕事を辞めることは、一時は「負け」とか「やり遂げられなかった」と否定的に捉えられるかもしれませんが、
自分を活かせる場所に移るということは、
自分も幸せでいられるし、まさに他人の「役に立つ」ことにもなると思います。

どんな人にも、神さまからもらった「ステキなギフト」があると思います。
それは一見すると「欠点」に思われるような場合もあります。
その欠点(のように見える特性)は、どんな「ギフト」を内に秘めているのでしょう?
自分の、そして人の、「ギフト」を見つけられるといいですね。