20年ぶりのクライアントさん

掲載日:2025.09.23


私がこの仕事を始めた最も初期の頃のクライアントさんから、
「〇市のKです。覚えてくださっていますでしょうか?」と、メールが届きました。

もちろん覚えていますとも!
彼女は気がかりな終わり方をした人なので、その後が気にかかっていました。

彼女は、20年近く前に福岡で行われた心理系のトレーニングのアシスタントとして
私が福岡に通っていた時の受講生でした。
そのご縁でセッションを希望され、当時は、
まだオンラインは普及していなかったので、電話でセッションを行っていました。

継続セッションのある時、私が彼女の傷にほんの少し触れようとしたことがありました。
その瞬間に、彼女の心の扉が恐れと共にピシャリと閉じられたことを私は感じました。
それでセッションは終了となりました。

その彼女から、「手遅れにならないうちに、と思い早期退職しました」
「人生の大きな岐路にいるので、これまでの棚卸しとこれからについてご相談したいです」
「基本的にオンライン面談とのことですが、対面でカウンセリング実施は可能でしょうか?」
「北海道に行って久しぶりに紀代子さんに会えたら嬉しいなあと思っています」
というメールが届いたのです。

基本的に対面でのセッションはしていませんが、
わざわざ九州から対面セッションを受けに来ると言われたら、
そりゃあ引き受けなければ女がすたるというところでしょう。

ということで、第1週にメールが来て、第3週には本人が北海道に来てしまいました。

せっかくなので、彼女のために一日を使おうと決めました。
20年ぶりに会うのですから、突然セッションというよりは、
まずランチをしながら旧交を温めつつ
自然な形でセッションへの助走をするのが良いように思いました。

更に、ランチをしてからそのままセッションに入るより、
いったんクールダウンの時間を設けたほうが良いと思いました。

前日夕方に札幌入りした彼女を駅で出迎え、早めのランチをしました。
1時間半くらいかな~と思っていたのですが、気づけば2時間もおしゃべりしていました。

彼女は、以前どうやってセッションを終了したかを覚えていませんでした。
その割に、私が自腹で福岡までアシスタントとして通っていたことは覚えていました。
(私は「自腹で」ということは、すっかり忘れていました。)
でも彼女は、私のことは、ずっと頭のどこかにあったということでした。

おしゃべりはまだまだ続きそうでしたが、いったん終了して、
私は「公園」と言いましたが、彼女曰く「これは私の概念では公園ではなく林です」
という北海道らしい爽やかな風が吹く「林」の中で、
クールダウンのため30分ほど一人で過ごしてもらいました。

私はセラピールームを持っていないので、対面セッションは我が家でということになりますが、
猫アレルギーがないか事前に確認したところ、犬も猫も大好きということでした。
「紀代子さんちのニャンズが知らない人にも触らせてくれるんだったら会いたいなあ」
ということだったので、猫たちが出迎える私の自宅でセッションをしました。

ちなみに、セッション中、我が家の猫たちは素晴らしい存在感を示してくれました。
絶妙なタイミングで「ミャー」と鳴いたり、
「常に交感神経が活動していてしっかりと眠ることができない」というKさんの前で、
「こんなふうにリラックスすればいいんだよ」とお手本を示してくれたり。

彼女は以前から旅好きで、休みのたびに海外へ、
それも観光客が行かないようなマニアックなところへ行くような人でした。

もちろん語学は堪能で、仕事も英語を使うのは当たり前の職場でした。
退職してからすぐに、台湾に語学留学に3ヶ月行ってきて、
会った時には、更にもう少し台湾留学を続けたいと言っていました。

「これまでの人生の棚卸と今後について」というテーマでセッションを受けたいというKさん。
「参考に」と8ページほどのキャリアシートとマインドマップを作って持ってきました。
その準備がKさんらしいなと感じながら、ちらりと見ただけで、
彼女がどれほど優秀な職業人だったかがわかりました。

ランチをしながら聞いた話では、送別会を2回も開いてもらったとのことでした。
100人単位の人が集まり、海外からオンラインで参加した人たちもいたとのことです。
更に、退職にあたりKさんへの感謝の言葉を綴った小冊子も受け取っていました。

それは上質の紙で作られた素敵な装丁の200ページのもので、
1ページに一人ずつのメッセージが載っているものでした。
200人もの人が彼女にメッセージを寄せたということです!

これまで彼女の職場では、退職者には色紙が贈られてきたそうです。
でも200人から寄せられた言葉を色紙には無理ですよね。
それで冊子になったようです。

私はそれにゆっくり目を通したいと思ったので、お借りすることにしました。
彼女が帰ってから一人一人からの心のこもったメッセージを読んで、
彼女がどれほど多くの人たちに信頼され慕われていたかがわかりました。

そこには「誰に対しても偏見を持たずフラット」「安心感」「手堅く緻密な仕事」
「関わる人たちへの愛情あふれる接し方」「沈着冷静な判断をする管理職」
「相手に寄り添い、優しく親切」「自分にとってのロールモデル」
そのような言葉があふれていました。

コロナで人の姿が一斉に消えた時には、一緒に鍬を手に花壇を耕し、
花を植えた思い出を綴ってくれた人もいました。

仕事に対する姿勢ばかりでなく、飲み会やキャンプ、旅行や果物狩り、
100キロウォーク(!)などの思い出が懐かしさと共に綴られていました。

そこにあふれていたのは、Kさんの仕事に対する秀逸さと人柄のすばらしさでした。
一緒に働く人たちからこれほど信頼され慕われていたなんて、
私が経営者なら「絶対に手放したくない人材」だと感じました。

しかし、そのように周りの人たちから高い評価を受けているにもかかわらず、
Kさん自身は自分に自信がなく、本当の自分を隠すために必死だっただけだと言うのです。

「何枚も化けの皮をかぶって頑張っていた」というKさん。
でもね、「化けの皮」って、30年以上もかぶり続けられるものかしらね。
私なら3日ももたないわ。

私との出会いが心理系のトレーニングだったということからもわかるように、
彼女はその後も様々なワークショップやトレーニングを受け、
資格もたくさん取得しているようです。
おまけにものすごい読書家です。

こうなると当然、私よりもかなり多くのことが頭に入っています。

こういう人が、一番やっかいです。(笑)

私がほんの少しでも、それもかなり遠くから核心に近づこうとしても、
やんわりととても上手に話をそらします。

本人はそれを意識してやっているのではないのですが、
だからこそ無意識の抵抗がものすごく強いことがわかります。

無意識が必死に守ってきたもの。

私はそれをむりやり引っ張り出そうという気はありません。
Kさんが長い間抱えてきた生きづらさを手放したいと本気で思うならお手伝いをしますが、
以前のように自らセッションをやめてしまう可能性もあることを感じています。

それはそれで、彼女の選択です。
彼女のキャリアと人柄なら、このままの人生も悪くはないと思います。

今、私の手元にある200ページの「冊子というよりは高級な本」に綴られた
200人の言葉に嘘はないと思います。
表紙には「みんなのKさん」「HUGE THANKS!」というタイトルと共に、
「Kさんに感謝し隊一同より」とありました。
これは一人一人の気持ちがなければできなかった作品だと思います。

Kさん。
あなたはそれらが全て「化けの皮をかぶった自分」に寄せられた言葉だとして
受け取りを拒否しますか?

私のクライアントさんに共通していることは、他人からの評価は高いけれど、
自己評価が極端に低いということです。

これは発達性トラウマを抱える人に共通していることだと言えます。
先日セッションをした限りでは、Kさんから特に辛い記憶は語られませんでした。

この先肝心なことは、「表面は柔らかいけれど、とてつもなく分厚く硬い心の扉」を、
Kさん自身が「開けたい」「開けよう!」と思うかどうかです。

これまでの私の経験から言えることは、「心の傷の大きさ」よりも、
本人のコミット(本気でそれと向き合おうとする気持ち)次第で、
これからの人生を変えていけるかどうかが決まります。

まずは、3回セッションを希望という当初の約束を実行します。

ということで、「次回のセッションは」というと、
10月はタイに少し寄ってからマダガスカルに1か月近く滞在するので、
「11月に」ということでした。

私史上、最高難易度のクライアントさんとの展開は、
今後どうなっていくのでしょうか。

手ごわさを感じると同時に、楽しみでもあります。

前回は自分で心の扉を閉めてセッションを終了したにもかかわらず、
私のことがいつも頭のどこかにあって、
今回こうして「セッションを受けたい」と言ってきたということは、
あなたの潜在意識は、ここを乗り越えて自己受容できる自分になりたいと
願っているということではないでしょうか。

Kさん。
あなたは、「人生が終わる日に後悔せずに生きていきたい」と書いてきましたね。
その言葉を、私はしっかりと受け止めましたよ。