デジャブ? 前にも同じことが…

掲載日:2022.08.30


俳優の香川照之氏が2019年7月、銀座のクラブでホステスに対して胸部を触る、キスをするなどの性加害をおこない、被害女性がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っていたことが報じられています。

記事によると、被害に遭った女性は、香川氏を止められなかったという理由で、クラブのママに対して損害賠償請求の訴訟を起こしたが、訴訟自体は昨年取り下げられているとのことです。

訴状には、「(香川氏が)ブラジャーを剥ぎ取った。剥ぎ取られたブラジャーは、被告及び同行の客3名に次々と渡され、全員がその匂いを嗅ぎ、いろいろと卑猥なことを申し述べた」と書かれ、さらに「香川氏は、原告にキスし、服の中に手を入れ、原告の乳房を直になでまわしたり揉んだりして弄(もてあそ)んだ」と、生々しい事件の記録が残されているということです。

これを読んで私は、デジャブかと思いました。

これは、前回書いた「知り合いが性加害者として逮捕された」
という話とは全く別の話です。

もう20年ほど前になるかと思いますが、同様なことが行われたことを思い出しました。

「本人及び同行者が、剝ぎ取ったホステスさんのブラジャーの匂いを嗅いだ」ということ以外、
ほぼ同じようなことを当時の知り合いが出張先で行なったと聞いたことがあります。

「嫌がるスナックの女性従業員のブラジャーをむりやり剥ぎ取り、
服の中に手を入れ、乳房を直になでまわしたり揉んだりした」ということを、
私は同行した目撃者から直接聞きました。

その加害行為をした20年ほど前の知り合いとは、市議会議員です。
私も市議会議員をしていた頃のことです。

地方議員も国会議員も、「視察」と称して各地に行きます。
議会では「会派」と言って、同じ考え方の人たちが一緒にグループを作ります。
私はもう一人の議員と二人の会派でした。

圧倒的に大きい会派は、今も昔も自民党会派です。

当時の私たち二人会派では、当たり前のことですが、
市政に役立てるために目的意識を持って視察先を決めて
帰ってきてからの報告書も自分たちで書いていました。

「そんなことは当たり前」と思いますよね。
でも、少なくとも当時の自民党会派の人たちは「視察=旅行」という認識で、
「議会事務局」という議会のことを専門に仕事をしている市役所職員に、
「今年はこのあたりに行きたい」と観光したい地域を指定し、
議会事務局職員に視察計画書も報告書も作らせ、
全員とは言いませんが大半が観光気分で「視察」という名目で税金を使っていました。

そのような視察先で、先の事件を起こした議員がいました。
しかもその議員は、更に翌朝 旅館で中居さんに抱き着き、
抵抗した中居さんに怪我を負わせたということでした。

議員視察も、私たちのような少人数の会派は自分たちだけで行きますが、
自民党のような大きな会派は議会事務局の職員が数名お世話係のように同行していました。

その議会事務局職員が、当該議員の目に余る行為について
帰ってから誰かに言い、それがあっという間に広まったようです。

最初私の耳に入った時には、「そんなことがあったらしい」ということでした。
私は噂で人を判断するのがイヤだったので、
一緒に視察に行っていた(私がマシだと思う)自民党議員の1人に
「絶対にあなたに迷惑はかけないので、事実かどうか教えてほしい」と頼みました。

彼は、それまで私が情報源を絶対に明かさずに議会活動をしていることを見てきたので、
私のことを信頼して本当のことを話してくれました。

彼は、当該議員が中居さんに抱き着いた現場を直接見てはいませんでしたが、
当該議員が中居さんを骨折させたことは事実であること、
スナックでは彼もその場にいて「止めたが止めきれなかった」
「その女の子は泣いていた」「ひどい状況だった」と言っていました。

その議員の証言で、噂は本当であることがわかりました。
ただし、私はその議員が証言してくれたことは誰にも言いませんでした。

「噂ではなく事実である」ということがわかれば、自信を持って行動できます。
信頼して事実を話してくれた議員に迷惑をかけることなく、
税金を使って行った先で女性の心や体を傷つけた当該議員の行為を追求しようと動きました。

噂を聞いて、地元の記者たちも動き始めました。
現地まで行って真相を確かめようとした記者もいましたが、
その頃にはかん口令が敷かれていて、関係者は口を閉ざし、
スナックの被害女性も旅館の中居さんもいなくなっていたということでした。

そして徹底追及しようとした記者は、遠い地に移動させられました。
私もいろいろと動きましたが、自民党議員団の圧力はすさまじいものでした。

手も足も出なかった半年後、その視察先の議員団がうちのまちに視察に来ました。
ありえないほどの歓待を受けていました。
不祥事をもみ消したお礼だったと思います。

しかもその間に、「彼には女の子どもさんもいるのに、そんな噂を流されるなんて、
奥さんと子どもさんが可哀そう」と、当該議員を擁護する声も多くありました。

私は初めての議員懇親会の席で、彼にイヤらしく絡まれたことがあります。
その時には別の自民党議員が上手に当該議員から私を救い出してくれました。
自民党議員の中にも、まっとうな人が(少ないけれど)存在します。

結局、当該議員のしたことは「無かったこと」にされました。
その議員は、その数年後に「市議会議長」にもなりました。
あと数年したら、「長年市議会議員として功績があった」として市から表彰されるでしょう。

何をやっても政治家は不問に付され、その家族も守られるけれど、
被害を受けた女性たちは権力や圧力や恐怖の前に口を閉ざされ、
傷つけられたままその後の人生を生きることになります。

今回被害を受けた女性はもちろんのこと、似たような被害を受けた多くの女性たちが、
今回の報道に触れて自身の体験がフラッシュバックしてまた苦しんでいると思うと、
本当に痛ましいし悔しいし怒りが湧きます。

私がこの問題を扱うことでフラッシュバックする人もいる可能性もあり、胸が痛みます。
でも、というか、そんなふうに傷を抱え続けている人たちが存在するからこそ、
私は今書いておかなければならないと思っています。

前回触れた「性加害者となった私の知人」は、
悪質さから言えば今回の香川氏や当該議員の半分にも満たない程度でしたが、逮捕されました。
香川氏は今回のことを謝罪しましたが、社会的制裁を受けそうな流れです。

しかし、同様のことをしても、もっと悪質なことをしても、政治家は謝罪もしないし逮捕もされません。

最後に、もう一つ、明らかな性加害事件であったにもかかわらず逮捕されなかった事件について、
改めて付け加えたいと思います。

安倍前首相の銃撃事件の責任を取って辞任となった警察庁長官の中村格についてです。
これは以前にも書きましたが、ジャーナリストの伊藤詩織さんが、
安倍前首相のお気に入りのジャーナリスト山口敬之にレイプをされた事件。

この事件は、現場の捜査員が入念に捜査をし正規の手続きを経て逮捕状を取りました。
犯人を逮捕すべく空港で待機していた刑事に
その直前で逮捕を取りやめさせたのが当時の刑事部長であった中村格です。

そのお手柄で安倍前首相に重宝され、他に有能な適任者がいたにもかかわらず、
中村格はとんとん拍子で出世し警察庁長官になりました。

その「恩ある安倍前首相」を銃撃から守れなかった責任を取って辞任となるとは、
「中村格は面白いな」と皮肉を込めてここに記しておきます。

一般人は軽微な事件でも逮捕され、芸能人は社会的制裁を受ける。
政治家とそのお友だちは、罪を犯してもおとがめなし。
そんな国、日本に私は住んでいます。